土地を相続したものの「遠くに住んでいて、利用する予定がない」「管理をするには経済的な負担が大きい」「放置すると近隣にも迷惑が・・・」「土地を手放したいけど、どうしたらいいか分からない」といった理由で、せっかく相続した土地なのに、管理に困ってしまうことは少なくありません。
しかし「相続土地国庫帰属制度」が施行されたことにより、指定の条件を満たすことで(さまざまな理由で)土地を手放したい時に、国に引き渡すことができるようになりました。
出典:法務省 相続土地国庫帰属制度の概要
「相続土地国庫帰属制度」とは
「相続土地国庫帰属制度」は、土地が管理できないまま放置され、将来「所有者不明土地」が発生することを予防するための制度です。相続または遺贈によって「土地の所有権」を取得した相続人が土地を手放したい際、法務局による審査を通過すれば、相続した土地の所有権と管理責任を国に引き渡すことが可能になります。
この制度によって相続放棄(相続財産全てを放棄)することなく、不要な土地だけを手放すことが可能となりました。
相続土地国庫帰属制度と相続放棄との違い
不要な土地なら「相続放棄すればいいのでは?」と考える方もいらっしゃると思います。確かに、相続人全員が相続放棄を行うことで、相続人が不在となった相続財産は最終的に国庫に帰属されます。(民法第959条)
しかし、相続放棄を行うと財産・債務の全ての相続を放棄することになるため、不要な土地のみを相続放棄することはできません。一方、相続土地国庫帰属制度では不要な土地のみを国庫に帰属させることが可能です。
制度申請ができる人は
制度申請できる人は下記の方に限られます。
①相続人
②遺贈(遺言による贈与)によって土地を取得した人
相続以外(売買など)により自ら土地を取得した人や、相続によって土地を取得することが出来ない法人は、基本的にこの制度を利用することは出来ません。
複数の人で所有している土地(共有地)の場合は、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む所有者(共有者)全員で申請する必要があります。
引き取り可能な対象地とは
本制度はどんな土地でも引き取ってもらえるわけではなく、「再利用できる可能性がある」と判断された土地でなければいけません。具体的には、相続などにより取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)において、その要件が定められています。
1)却下事由(法第2条第3項)
以下に該当する土地は、国庫帰属の申請自体が認められません。
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
2) 不承認事由(法第5条第1項)
以下に該当する土地は、国庫帰属の申請が不承認となります。
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
制度利用の流れ
① 事前相談…土地の所在地を管轄する法務局へ相談
② 相続によって土地を取得した人が法務大臣(法務局)に承認申請を行います。
③ 承認申請書を提出し、さらに所定の審査手数料を納付
④ 書類審査…法務局担当官による却下事由と不承認事由の存否が審査されます。
⑤ 実地調査…法務局担当官による書類審査だけでは不十分な場合に、実地調査が行われます。
⑥ 法務大臣は必要な場合にその土地を調査し、対象の土地が「引き取ることが出来ない土地」にあたらなければ、土地の所有権の国庫への帰属を承認します。
⑦ 承認を受けた方が一定の負担金を国に納付すると、土地の所有者が国庫に帰属します。
国庫帰属についての注意点
この制度は国に土地を買い取ってもらうのではなく、相続人が10年分の土地管理費相当額の負担金を払い、国庫に帰属させるという制度です。
相続土地の国庫帰属を申請する場合の負担金はいくら?
制度利用申請後の審査には、土地一筆当たり14,000円手数料がかかります。申請時、審査手数料の額に相当する額の収入印紙を貼って納付することになります。※手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下・不承認になった場合でも、返還されませんので、注意が必要です。
無事に審査を通過し、国が管理をすることとなった場合は、元々の所有者が(土地管理の負担を免れる程度に応じて)管理費用の一部を負担金として納めなければなりません。負担金は当該土地の種目ごとに、その管理に要する「10年分の標準的な費用」を考慮して算定されます(20万円~)。
①「宅地」の場合・・・原則として、面積にかかわらず20万円
②「田、畑」の場合・・・原則として、面積にかかわらず20万円
③「森林」の場合・・・面積に応じて算定(たとえば3000㎡の場合、29万9000円)
④「その他」(雑種地、原野など)の場合・・・20万円
まとめ
この法律の施行以降は要件を満たせば「買い手がつきにくく、管理が大変な土地」を国に引き取ってもらえるようになります。
不要な土地を手放す際、最も大変な点が「信頼できる引き取り手を探すこと」。これらの土地は不動産会社に相談して門前払いされることもあります。対して、相続土地国庫帰属制度では引取後に国有地として適切に管理されます。引き取り手が「国」だから安心できるという点は最大のメリットです!
今後、もし土地を相続した際には、相続土地国庫帰属法も選択肢の1つとして、考えてみてもいいかもしれませんね。
【HP H 230602-001-01】